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「オリンピックと知的財産権」
客員研究員 工藤敏隆
本年8月8日から,中国・北京で夏期オリンピックが開催される。4年に一度の世界的祭典だが,便乗して一儲けを目論む商人達が跳梁するのも,古今東西祭りの常である。
オリンピック旗,オリンピック・シンボル(五輪マーク),オリンピック・モットー(「より速く,より高く,より強く」)については,オリンピック憲章により国際オリンピック委員会が独占的権利を有するとされているが,これは一団体である国際オリンピック委員会の内規にすぎない。 我が国の国内法においては,商標法4条1項3号や不正競争防止法17条によって,国際オリンピック委員会(IOC)や日本オリンピック委員会(JOC)による独占的使用を間接的に保障していることになる。 実際には,IOCやJOCのほか,協賛契約を締結した企業が,五輪マークや大会シンボルの使用許諾を受け,これらを自社広告等に使用している(なお,「オリンピック」や"Olympic"の商標については,IOCによる登録以外に,他の一般事業者による先行する登録がされている。)。
さて,オリンピックの「商業化」への転換点とされるのは,1984年のロサンゼルス大会とされているが,五輪マーク等をめぐる知的財産紛争は,それより半世紀以上前の1932年のロサンゼルス大会において既に起こっている。 同大会で公式サプライヤーとして選手村にパンを提供した地元のパン製造業者が,五輪マークやオリンピック・モットーを全米各地で商標登録したことから,後に米国オリンピック委員会との紛争に発展した。同委員会が商標の使用権を譲り受けて決着するまでに10数年以上を要したようである。
また,1964年の東京大会では,JOCから使用承認を受けてオリンピック・シンボル等を付した提灯を装飾・宣伝用に配布していた団体が,同委員会との間で使用承諾の更新の有無をめぐって紛争となっている。 東京地決昭和39年9月24日下民集15巻9号2293頁では,使用許諾の更新の有無の点に加え,JOCが五輪マーク等の著作権者であるとの主張についても検討され,著作物性,権利の取得経過,保護期間の問題について疑問を呈しつつも,JOCが著作権を有していたとの主張にも一定の理解を示している(ただし,現在では判旨に疑問がないではない)。
そして今回の北京五輪である。かねてから知的財産権保護強化を課題としている中国政府は,既存の商標法等では不十分と判断し,オリンピック標章の使用についての権利関係や,違法行為に対する当局の調査権限などを具体的に規定した五輪標示保護条例を施行している(国家工商行政管理総局商標局2002年4月1日公布・施行)。 しかし,五輪マークや大会シンボルの不正使用の事案は後を絶たず,国家知識産権局(知的財産権局)の統計によれば,2004年から2007年9月までの間,中国国内でのオリンピック標章の使用権侵害による被害額は既に1693万元(約2.5億円)に上るとされている。 本年5月には,北京市知識財産局長が,今後,北京五輪での知的財産権保護をめぐる緊急対応メカニズムを構築し,知的財産権を侵害する各種行為に対する取締を一層強化することを発表している。
今回のオリンピックは,中国にとって様々な意味で試金石とみなされている。出場するアスリート達は本大会に向け最後の調整の時と思われるが,五輪便乗商品の取締についても,今この時期の追い込みが勝敗を決するのではなかろうか。平和の祭典が成功裏に実現することを願ってやまない。
(2008/06/04 update)
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