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2月下旬、「近代音楽の父」ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の史実に近い姿が、遺骨に基づきCGにより再現されたというニュースが報道されたが、J.S.バッハなど18世紀ごろの音楽史を見てみると、作曲家と作品との奇妙な関係に気づくことがある。 他人の作品を編曲したものが編曲者作の作品として伝えられている例の多いことである。 例えば、J.S.バッハ作として知られている「4台のチェンバロのための協奏曲BWV1065」はヴィヴァルディの協奏曲の編曲であり、モーツァルトの「交響曲第37番K.444」は序奏部分だけモーツァルトの作で、本体はミヒャエル・ハイドンの作と判明している。 編曲者が作曲者を名乗るという、現代からすれば奇異にも映るこの関係はいかに理解されるべきか。
ドイツ最初の近代的制定著作権法が1837年プロイセン法であるとすれば、確かに彼らはその成立の遥か以前の人物であるから、現代と同様の氏名表示権や翻案権など念頭になかったか、それらについて現代とは異なった考え方をしていたことが推測される。 だが少なくとも、真に彼らの手になる傑作が現代にこれほど多く伝えられている事実を考えると、彼らに自己の作品に対する何らかの意識がなかったとはいえない。
H.Pohlmannの実証研究『音楽著作権の初期史』(*)によれば、15世紀以降、多声音楽の隆盛期には、敬意を持ってなされるパロディこそが作曲上重要とされた時代があったが、このような状況においても、初期ドイツ・バロックの音楽家ハインリヒ・シュッツ(1585-1672)は、他人の作品の一部分を自己の楽曲に用いる際には原曲の作者名を表示せねばならないと述べ、実際に自作の楽譜の冒頭でそれを行っている。 他にも、かなり早い時期から、現代に通じる著作権・著作者人格権的意識の存在を示す豊富な例が挙げられている。 とはいえ、このような意識が広く共有されるに至ったのは、作曲技術の進展・変化とともに、オリジナリティの意識が(和声の進行までもが剽窃として論争の的にされるほど)過剰に強まった18世紀後半、すなわちJ.S.バッハの没後であったようである。 ここから考えると、BWV1065編曲の真意は、彼の音楽に強い影響を与えたヴィヴァルディに対する、当時として伝統的な方法でなされた純然たる敬意の表明であったのかもしれない。
もっとも、作曲者名の混乱は作曲者の作品に対する意識が原因でない場合も多い。例えば、バッハの家庭で子弟の教育用の楽譜に綴じられていた別の作曲家の作品が、死後バッハの名で出版され定着してしまうこともあった。 携帯電話の着信音などに頻用され、バッハ作として長年親しまれてきた「メヌエット ト長調BWV Anh.114」は、近年バッハと同時期の作曲家ペツォールトの作ということが判明した。 現在から見れば錯綜しているようにも映る著作者と著作物の関係の実像解明のためには、生前の姿の再現と同様、大変な努力が求められるように思われる。
(*)Hansjörg Pohlmann, Die Frühgeschichte des musikalischen Urheberrechts (ca.1400-1800), Bärenreiter-Verlag, Kassel, 1962, S.59 ff.
(2008/04/23 update)
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