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「美術の著作物のフェアな使用」

RA 小川明子

 2006年の文化選奨文部科学大臣賞に推された画家の作品が、イタリア在住の画家の作品の模写ではないかという問題はマスコミで大きく取り上げられた。 本人は、原作品をもとにしたオリジナル作品であると主張したが、一作のみならず多くの作品の構図が酷似していたこと、 何度もイタリア人画家のもとを訪ねては作品の写真を取っていたことなどから、模倣であり評価を与えることはフェアではないという世論が形成された。 結果、芸術選奨は取り消されることになった。それでは著作権法の世界では彼の行為はどのように理解されるのだろうか。
 英米法には、「フェア」であることを理由として著作権侵害を問われない「フェアユース」あるいは「フェアディーリング」がある。 アメリカにおけるフェアユースの判断は、(1)使用の目的及び性格(2)原著作物の性質(3)使用された量と実質性(4)経済的影響の4点が基準とされ、 そのうち使用の目的及び性格の判断においては、transformativeな使用であるかどうかが重要なポイントとなる。
 美術分野の判例を探してみると、1992年第二巡回裁判所で判決が言い渡されたRoger v Koons(※1)事件がある。 写真家のArt Rogers は、庭のベンチで夫婦が子犬を両腕にかかえる写真を撮影した。その写真が絵葉書として使用されたものを見たJeff Koonsは全く同じ構図で彫刻を作成した。 しかし、Koons作品は何ら新しい表現が付加されていないとしてtransformativeであることが否定され、著作権侵害が認められた。 二次元の画像を、Koonsが三次元の彫刻として再構築したことにおいて、果たしてtransformativeな要素は皆無であるかという疑問は残るにしても、 制作過程において写真と全く同じにすることを目指して部分部分が制作されていたことは事実である。
 それから14年、2006年10月Koonsは別の侵害訴訟でフェアユースを勝ち取った(※2)。写真家のBlanchが雑誌の広告のために撮影した作品は、 サンダルを履いた女性の足首が中心に写され、飛行機のファーストクラスと思しき座席の男性のひざに乗せられている意味深なシーンを写している。 Koonsは雑誌でこの広告写真を見て、女性の足の部分のみを切り取り別の足首2組と組み合わせ、背景に様々なデザートを配した「ナイアガラ」というコラージュ作品を完成させた。 そして、またしても訴えられた今回は、transformativeであることが認められフェアユースが成立したのである(※3)。
 さて、件の有名画家の受賞対象作品について言えば、構図のみならず、色合いも、背景も、雰囲気も原作品を感じさせる要素にあふれており、 transformativeと看做されるだけの創作性があると判断することは非常に難しいと思われる。さらに原作品とまったく同じ構図で、同じ画材による、 同じ絵画という分野の作品に対する判断であるとすれば、transformative であると示すためには高い創作性が求められると推測されるのである。
 しかしこれは不可能なことではない。例えばマネの『草上の昼食(Le de'jeuner sur l'herbe)』(※4)のオマージュとしてピカソが描いた『マネによる草上の昼食(Le de'jeuner sur l'herbe d'apre`s Manet)』 は、 だれが見てもピカソとわかるある種ピカソの刻印が押されているような作品でありながら、マネの構図を踏襲したものである。
 これまでの制作過程のいわば種明かしがされてしまった状況においては、この画家が今後どのような作品を作って行くのかが興味深い。 模倣ではないと主張し続けるのであれば、彼独自のオリジナリティを感得出来るような次作品に期待を寄せたい。


(※1) 751 F.Supp.474 SDNY 1990, 960F.2d301 2d Cir.1992  尚、ハーバードロースクールのサイトで、画像を見ることが出来る。
(※2) Blanch v. Koons 05-6433-cv 2d Cir.2006
(※3)画像は、こちらを参照されたい。
(※4)マネとピカソの「草上の昼食」は以下で見ることが出来る。
マネ   ピカソ 

(2007/02/19 update)

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