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「香水の著作物性に関する欧州での裁判例」
客員研究員 工藤 敏隆
「香り」は目には見えないが、科学的に確実に存在するものである。かぐわしい芳香は人の心に訴える力を有することに、異論はなかろう。 もともとは自然界に偶発的かつ無秩序に存在していたものが、人間の手で調整されることによって感銘力を具えるという面を捉えれば、 音(音楽)に似ているようにも見える。しかし、音楽は著作権法の代表的な保護対象であるのに対し、香りの創作物は、少なくとも、 著作物の例示列挙の中には含まれていない(著作権法10条1項参照)。例えば香水が、 思想又は感情の創作的表現(著作権法2条1項1号)に該当するかと問われれば、我が国の多くの論者は消極に解するのではなかろうか。
外国法に目を転ずると、フランスでは、香りの創作物についても著作権法による保護対象として肯定する見解が優勢とされている。 代表的裁判例として、ティエリー・ミュグレー事件(パリ商事裁判所15部1999年9月24日判決)は、香水の著作物性を一般に肯定し、 問題となった香水の創作性も肯定したものの、原告が著作権の有効な譲渡を受けていないとして、侵害者に対する請求は棄却した。 今年に入り、パリ控訴院が香水の著作物性を肯定し著作権侵害に基づく損害賠償請求を認容する判決を下していたが、上告審において、 著作物性は結局否定された(ロレアル対ベリュール事件:破棄院商事部2006年6月20日判決)。しかし、フランスにおいては、 著名な香水生産地や高級ブランドを擁するがゆえに自国産業保護思想も強く、香水の著作物性をめぐる議論がこれで即座に収束するとは考え難い。 他方、オランダの最高裁判所も、最近、香水の著作物性を肯定する判決を下している(ロレアル対ケコファ事件:オランダ最高裁2006年6月16日判決)。 判旨は詳細な分析を行っており、オランダ特有の前衛的な法思想のみに帰することができない、興味深い示唆を含んでいる。
我が国では香水を常用する人は少ないものの、香道のように香りを芸術の一環として楽しむ伝統的素地の深さは、欧米に勝るとも劣らない。 ここは一つ、香りの創作物の著作権論争に「鼻が利く」ところを世界に示してみるのも、愉快ではないか。
(2006/7/18 update)
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