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「文化の多様性保護」と「著作権の保護」

早稲田大学助手 張 睿暎

 今年3月、仏下院は「デジタルコンテンツプロバイダに、デジタル著作権管理 (DRM) 技術の公開を義務づける法案」を296対193で可決した。 人気音楽サービス「iTunes Music Store」と、人気デジタル音楽プレーヤー「iPod」を手がける米アップル社はこれに強く反発し、 下院が可決した法案は「国家が支持する著作権侵害行為」にほかならないと批判した。 デジタル音楽プレーヤー市場で圧倒的なシェアを持つアップル社のiPodは、現時点ではiTunesからの楽曲しか再生できないように設計され、 iTunesはiPodと競合する音楽プレーヤーとは互換性がない。 アップル社が強く反発したのは、下院可決案がそのまま上院を通過すれば、 同社の競合相手が制限なく同社のDRM技術である「FairPlay」の内容を知ることになり、 デジタル音楽販売市場での独走ができなくなる恐れがあったからである。
 法案の背景には、フランス国内でデジタルコンテンツ事業を行う者にコンテンツの相互互換性の確保を義務付けることによって、 結果的に自国のデジタルコンテンツ業者を保護するという経済的意図だけではなく、 世界で影響力を増している米国文化から自国文化を守ろうという意図もあったといえる。すでに映画のスクリーン・クォーター制など、 自国文化保護のための施策を積極的に行っているフランスは、各国が自国文化を維持・保存することが世界文化の多様性を守ることであるとしている。 例えば、日本政府の「知的財産推進計画2005」でも「科学技術にとどまらず、コンテンツやブランドといった広い意味での知的財産が、 国家の魅力を高めているところである。」としているが、自国文化の保護は、各国独自のコンテンツやブランドの育成に通じる点で、 知的財産という視点からも、大きな意味を持つといえよう。
 しかし、仏上院は5月10日、「技術的手段を相互運用性における事実上の障害としてはならず」という部分を削除した上で、164対128の賛成多数で同法案を可決した。 その代わり相互運用性を管理する独立規制機関が設置され、「相互運用性の改善」を求める企業が申し立てれば、同規制機関が「調停支援に努める」ことになる。 ただし、それはフォーマットによって起きる制限が、「著作権保有者が明示的に定めた制限事項とは無関係」な場合に限られる。 すなわち、アップル社はiTunesに楽曲を提供するアーティストなどの著作権者のためならば、これまで同様DRM技術の公開を拒めるということである。 自国文化を保護しようとする努力も「著作権の保護」という大義名分には譲歩せざるを得なかったのである。

(2006/5/17 update)

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