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RA 小川明子
春四月。今月のコラムは、真っ白な気持ちで新たな1年の始まりに望むという意味で、John Cageの書いた「4'33"(4分33秒)」という曲について考えてみたい。
Cageは1952年ハーバード大学の無音室(anechoic chamber)を訪れた際にその中で二つの音を聞いたという。高音は自身の神経系統の、低音は血液循環の音である。 さらにひとつの「絵画」が彼の確信を裏付ける。Rauschenbergの「White Painting」
(
http://www.guggenheim.org/exhibitions/singular_forms/highlights_1a.html
ご興味のある方は、グッゲンハイム美術館でこの絵を見ることができる。)である。 そして「4'33"」は出来上がった。
初演の時からこの曲は、観客を非常に驚かせた。なぜならば、ピアノ曲であるにもかかわらず、現実には、 ピアニストはピアノの蓋を閉めることと開けることをする以外には黙って4分33秒間座っているだけだからである。 (蓋の開け閉めと秒数は楽譜に書かれている。)そう、ピアニストはピアノを弾かないのである。CageがRauschenbergの白いキャンバスに描かれた白い油絵に触発されたのは、 演奏会場においてピアニストはなにも弾かず、彼を取り巻く環境の偶発的な音が曲を決めるというものだった。
英国ではMike Battという作曲家の率いるThe Planetsというグループが1分間の(演奏をしない)「曲」をアルバムの13番目に入れて、 その作品にはBatt/Cageというクレジットを記載した。Cageの英国の音楽代理人はこれがCageによる「4'33"」の著作権侵害であるとして2002年2月に訴訟 を起こした。
Cageの著作権保護範囲はどのようなものであるかは非常に興味深いテーマである。Cheng Lim Sawは2005年12月号のE.I.P.R.で英国法における無音の著作物について検討している。 興味深い点は「4'33"」という音楽の著作物の侵害が成立するかではなく、音楽、演劇、文芸のどの著作物に該当するかという点から検討を始めていることである。
英国著作権法において音楽の範囲についての記載はない。従来からの古典的楽曲から現代音楽への発展過程において、無調だったり、偶発的だったり、 「4'33"」のような無音であるケースさえもあるのだから、今後は著作権法が意味する「音楽」にこれらを取り込むかという議論が必要とされるだろう。 実際Cage自身が世の中には「無音(silence)」などというものはないと主張しているわけだから、「無音(silence)」である「曲」を作ったとは言えない。 しかし聞く側からどのように聞こえているかを客観的に判断すれば法的には音楽とみなすことが否定されるのが現状であろう。それでは演劇はどうだろう。 英国判例においては、演劇作品はactionを含んだ聴衆の前で演じられるようなものであるとされている。 「4'33"」の初演ではピアニストに対してピアノの蓋の開閉という行為が命じられている。しかしこのような最小限度の動きだけでは演劇の著作物と言い難いだろう。
最後に文芸の著作物の可能性はどうだろうか。判例から「文芸の形式において情報、指示を与えたり、楽しんだりすることを意図する」と定義すれば、 細かな注意が記載されている「4'33"」という出版物は、文芸の著作物に含まれるだろう。Sawの結論は、音楽や演劇というよりはむしろ、 文芸作品といえるのが一番適切ではないかというものである。
前述の侵害訴訟は結局2002年9月には和解に終わっているが、Battは6桁の数字(英国ポンドベース)の寄付金をJohn Cage Trustに寄付したと報じられている。 英語でお金はgreenbackとも言われ、ドル紙幣の裏側が緑ということから来ているらしい。真っ白ではじめたコラム、最後は緑色の話になってしまった。 春四月。若葉の季節である。
1.
http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/music/2133426.stm
2.Chang Lim Saw, Protecting the Sound of Silence in 4'33": A Timely Revisit of Baisc Principles in Copyright Law, E.I.P.R. Issue 12 (2005)
3.
http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/music/2276621.stm
(2006/3/14 update)
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