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「著作権の知識が著作物の利用を躊躇させる?」

RC 平山太郎

 高校生のとき、合唱部の顧問をされていた音楽の先生によって、なかば強制的に入部させられて以来、大学、 社会人と合唱団に所属してきた(最近は忙しくてどこにも所属していない)。当時は、「著作権」などという言葉は頭の片隅にもなく、 そもそもどこに行けば楽譜が入手できるかすら分からない状態で、先生からコピーを渡され、 それをただひたすらに歌う日々であったと記憶している。
 それでも、大学に入って自分たちで演奏会を切り盛りするようになってからは、楽譜のコピー使用は「なるべくなら」止めた方がいいとか、 演奏する曲については事前にJASRACに申請しなければならないと知り、「著作権」という言葉くらいは理解するようになっていた。 現代曲(つまり著作権の切れていない曲)の演目が多かった年は、3万円強の著作権料を支払い、 金のない学生にとっては会場費とともに切実な問題で、「だからクラシックばかり演奏されるのか」などと穿った見方をしたものである。
 社会人になってからは、著作権の知識も増え、過去の行為が「やはり」違法であったことを知る。 一方で、所属していた合唱団の演奏会を有料から無料に切り替えて、 営利目的でない演奏会であれば著作権料がかからないという規定を利用するなど悪知恵を働かしたりもしていた(ただ、今考えると、 指揮者や伴奏者への報酬の支払いがあったため、著作権法38条1項但書の要件を満たしていなかった)。
 しかし、今度は逆に著作権侵害になるのかどうかの境目に悩むようになる。
 今でもよく分からないケースとして、出版社が倒産した場合の楽譜のコピーという問題がある。
 所属していた団体があるコンクールに出場したときのことである。コンクールで歌う曲の楽譜を審査員の人数分提出しなければならなかった。 その年はお願いしていた指揮者の意向で、ハンガリーの作曲家バルトーク(1881〜1945)のハンガリー民謡の中の1曲を歌うことになっていた。 当時この曲はドイツ語の歌詞による楽譜しか販売されていなかったが、指揮者の先生がどうしても原語でやりたいと、 ブダペストの中古楽譜屋(神田神保町の古本屋みたいなのがヨーロッパにもあるらしい)から探してきたというマジャール語のテキストによるものを用いることになった。 しかし、その出版社はすでになく指揮者の先生が所有する1部しかなかったため、団員の分はもちろん審査員用もすべてコピーとなってしまった。
 演奏についてはコンクールの主催者側でJASRACの申請がされていたはずだが、楽譜のコピーについては、楽譜の出版社から許諾を得る必要がある。 しかし、許諾を得るべき出版社はすでに存在しない。日本の著作権法によるならば、出版権は定めがなければ最初の出版日から3年で切れるため(83条)、 出版権者ではなく著作権者の許諾を得ることになるが、なくなった出版社と著作権者との間でどのような約定が取り交わされたかは今となっては不明である。 また、67条に著作権者不明の場合における著作物の利用についての裁定規定があるが、出版権者不明の場合に類推適用できるのかも不明である。
 事情を話してその年はパスできたと記憶しているが(実際その曲で出場した)、主催者側も楽譜のコピーについてはうやむやにしてしまったのではないかと思っている。 今であれば曲目変更を求められていたかもしれない。
 この経験だけをもってフェアユース規定を導入すべきと主張するつもりは毛頭ないが、現行法を厳格に解釈するならば、 著作権法に挙げられていない行為については許諾を得ない限り著作権侵害となる。実際には訴えられることの少ないケースだろうが、 勉強を進めるほどに著作物の利用を躊躇させてしまうという現状は、果たして著作権法の目的である文化の発展に繋がっているのか疑問なしとは言えない。

(2005/10/25 update)

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