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「強きを助け、弱きを挫く−法解釈を忘れた法律家?」

拠点リーダー 上村達男法学部教授  戦後の会社法学の中心テーマは、小規模で閉鎖的な株式会社が会社法を守れないことから来る間隙を、 法解釈と判例法理の創造によって埋めてきた歴史と言っても過言でない。取締役会や株主総会の承認が必要なのだが、 それをしなくても取引は有効とか、株券は発行しなければならないのだが、発行しなくても株式の譲渡は有効とか、 法的根拠は民法の権利の濫用だけだが大きな法理として形成されてきた法人格否認の法理、 中小会社の破綻処理理論であり法の創造とも言われた取締役の対第三者責任における法定責任説等々、枚挙にいとまがない。 ここでは一方において、閉鎖的な会社に適合的でない会社法制の欠陥を解釈で補い、法の欠落を法創造で補い、 支配あるところに責任を認めるために法解釈を行う法律家の姿があった。 とりわけ法人格否認の法理と法定責任説を認めた昭和44年の最高裁には、松田二郎、 大隅健一郎という二人の著名な商法学者がいたことも特筆すべきことである。
 時代は変わり、株式会社は資本市場を活用する本格的な公開株式会社であることが期待されるに及び、 法律家は法解釈と法創造を忘れたかのようである。 公開株式会社は資本市場のルールが上質なものに維持されていなければ成り立たないところ、 急激で過度な自由化と規制緩和に規律面の対応が追いつかず、不正をその場で正すという法解釈の姿勢が失われてきている。 問題が起こるたびに現行法上違法ではないがすぐに法改正をするといった対応が続いており、法は現在進行形で機能していない。 ライブドアの時間外取引も株式分割も投資事業組合を通じた自己株式の大量取得も、 村上ファンドによる市場外取引と市場取引を組み合わせた三分の一を超える株式取得も、 45%もの株式を買い集めて取締役を送り込む提案をしながら支配目的でないとして大量保有報告書の変更報告書を出さなくても、 皆その時点では違法ではないとされているようだ。中立的な研究者の多く、とりわけ若手の法律家の間にも、 一切を形式論理で済ませ、法解釈を行わない傾向が看取できる。 このことは筋の悪い策略を用いても最初はつねに見逃されることを意味し、不正の蔓延と市場の歪曲を放置するに等しい。 脱法行為と言えば違法を意味すると思っていたところ、最近では脱法行為とは違法ではないという意味に使われるようであるが、 これも法解釈の重要性を忘れた最近の傾向を物語るものであろう。
 小規模閉鎖会社では柔軟な法解釈や法創造を行っても、相手は中小企業の「おやじ」だから気にしない。 しかし大規模公開会社の時代になると、相手は大企業、大金融機関、 金融庁等々といった大物ばかりであるからよほど覚悟がないと法解釈や法創造を発揮できない。 ルール型・司法型の時代になったにもかかわらず金融庁の法解釈に盲従する傾向も強い。 原則禁止の時代の気楽な法律家の姿勢は、原則自由の時代には、 経済人が当然にできると思っていることにNOと言えなくては法律家の使命は果たせない。 大規模公開会社の時代、しかも最大自由を当面肯定してしまった時代にこそ、 果敢な法解釈と法創造を行っていかなければ取り返しのつかないことになる。 法運用の遅れは不公正な証券市場を野放しにし、株式会社制度を歪め、安易なバブルを生み、その失敗は多くの禍根を残す。
 公開会社と資本市場には形式論を、中小企業には実質論を、という姿勢は、結局は強きを助け、 弱きを挫く法律家の温存を意味することになる。 ロースクールにおける法曹教育の根幹にこうした問題意識が徹底されていなければならないはずであるが、 現実にはそうなっているのか。 何となく実務や経験ばかりが幅をきかせているようなロースクールが社会的使命を果たしていけるはずがないことは確かだろう。



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