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「超優良企業のガバナンス」

拠点リーダー 上村達男法学部教授  トヨタ、キヤノンは成績が良いためか、自社のコーポレート・ガバナンスに対して自信を持っているようである。 いわゆる委員会等設置会社のようなアメリカ型は不要であり、日本型を追求すべきと言う。 ただこうした主張にはいくつかの落とし穴があるので、論点のみを指摘しておこう。
 第一に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは経営権の正当性の根拠を示すための議論であり、要は、 経営者は何故経営できるのかを明快に説明できるかの問題である。成果がよいことはこの意味での正当化理由にならない。 マックス・ウェーバーをもじって言うなら、伝統的支配は近代的な株式会社に相応しいものではなく、 カリスマ的支配はいつか日常化し陳腐化する。合法的支配に背を向けた株式会社がいつまでも超優良企業でいられる可能性は大きくない。
 第二に、コーポレート・ガバナンスは会社破綻時に真価が問われる。りそな銀行を始めとして、 公的資金が導入されたり再建策が練られる場合には、委員会等設置会社でないと周囲が許さない。 優良企業がいつまでも優良企業でいられる保証はないから、いかなる状況でも胸を張れるガバナンスが必要である。 旧式のシステムは思ったより早くほころびを見せる。オランダ東インド会社1602年以来の会社法の歴史は、 優良さなど一時のことであることを教えている。
 第三にこうした企業は、株主価値よりも雇用が大事だと言うことが多いが、大抵の場合、株主の多くは法人であり、 そうした法人株主による安定的な支持(要は仲間の経営者による支持)を当然のこととして享受している。 法人株主という株主を最大に頼りにしながら主張される「株主価値より雇用」という場合の株主とは、 法人株主以外の個人株主を想定している場合が多い。要は個人株主よりも法人株主が大事と言っているのだから、 市民社会に根ざした企業とはいえない。
 第四に日本には企業結合法制が欠落しているから、こうした優良企業は子会社債権者や子会社少数株主に対して一切責任を負わずに有限責任利益を享受している。 外国企業がこうした面で相応のコストを払っているのに対して、日本企業はこの面でいまだ対等競争をしているとはいえない。いずれ判例理論や立法により支配あるところに責任ありの原則が確認された場合に、そうしたコストを払ってもなおかつ優良でいられるかはそのときになってみないと分からない。
 結局のところ、超優良企業であればこそ、そうした恵まれた状況を生かして、 いかなる状況になろうとも経営権の正当性を主張しうるコーポレート・ガバナンス・システムを構築しておくことが得策なのである。 うまくいっているから変える必要がない、という感覚が、将来の危機の最大の原因かも知れないのだが、 今の経営者はおそらく一生気がつかないことであろう。


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